2008年度作品。アメリカ=フランス映画。
全米No.1レスラーだったランディ。50代になった今でもスーパーでアルバイトをしながら、かろうじてプロレスを続けている。ある日、試合直後に心臓発作を起こし倒れた彼に医者は「命が惜しければリングには立つな」と告げる。一人娘のステファニーと疎遠で孤独に生きてきたランディ。さらに生きがいを失った彼には何も残っていなかった。新しい仕事に就き、娘との関係を修復し、好意をもっていた顔なじみのストリッパーに心の拠り所を求めるが…
監督は「レクイエム・フォー・ドリーム」のダーレン・アロノフスキー。
出演はミッキー・ローク、マリサ・トメイ ら。
老いるということは一般的に悲しいことだと思われている。
老いることによって、見えてくる風景はあるけれど、失われるものがあまりに多いからだ。
年をとるにつれ、若いころのように動くことができず、何かをあきらめねばならなくなるし、年を取るほど、適応力は失われてしまう。
主人公ランディはかつて栄光をつかんだレスラーだ。
そんな彼は心臓病を発し、引退を決意するに至る。老いを迎えたものがいつか通らざるをえない道だ。
ランディはそれをきっかけに暮らしを変える。スーパーでの日常の仕事を増やし、仲違いしていた娘と和解しようとする。そして親しいストリッパーの女と接近する。
それはレスラーをしていた時代とは、いくらか違った生き方だ。
その行動は彼なりに、人生を再出発しようという意志の表れなのだろう。
だが違う環境であるがために、彼は上手くその環境に適応していくことができない。
せっかくうまくいきかけていた娘との仲も再び悪化し、スーパーでの仕事にも嫌気がさして最後は辞めててしまう。
彼は基本的に不器用な人間なのだろう。
それだけに現実世界は、彼にとって、リングの世界よりも痛く苦しいものでしかないのだ。
彼はどこまでいってもレスラーであり、リングの上にしか生き場所がなく、そしてそこにしか死に場所がない。
それがいいか、悪いかはともかく、少なくとも彼の主観ではそれは厳然たる事実であるようだ。そのため彼は最後、リングの上へと戻っていく。
実際レスラーの彼はそこで多くの栄光をつかんできた。
そして現在でも、プロレスの世界でなら、彼は多くの人に愛され、認められ、尊敬されている。
そしてその世界でなら、彼も本当にいきいきと動くことができるのだ。
確かにリングの上こそ、彼が生きざるをえない場所なのかもな、という気がしなくはない。
しかし悲しいかな、彼が愛されるその場所に、彼が愛する存在はいないのである。
仲違いしたままの娘も、親しくなった女も、彼が苦しみ適応できなかった現実世界の側にいる。
その事実が、あまりに苦くつらい。
彼の生き様について、良し悪しの判断は下せないだろう。
彼にはきっとそういう生き方しかできなかったのかもしれない。
その悲しい事実だけが最後に残り、深い余韻を生んでいる。きわめて印象深い一品だ。
評価:★★★★★(満点は★★★★★)
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